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学校の成績や宿題、ゲームの時間などをめぐり、親子で言い争いになった経験は誰にでもあると思います。子どもへの期待は家庭によってさまざまですが、成績が振るわないと怒鳴りつけたり、子どもが嫌がっているのに勉強や習い事を無理強いしたりするのは「教育虐待」に当てはまるかもしれません。 教育虐待とは、教育熱心な親による過度な教育やしつけ、体罰のことで、 2011年に日本子ども虐待防止学会で武蔵大学の武田信子教授が「子どもの受忍限度を超えて勉強させる」行為は教育虐待に当たると発表しました。日本では、2016年8月に父親が中学受験を控えた小学6年の長男を刺して死亡させた事件があり、教育虐待の例として大きく報道されました。父親は、日常的に長男を包丁で脅しながら勉強をさせていたそうです。 これは極端なケースですが、アメリカでも親の意向を押しつけるケースは珍しくありません。成績がオールAでないとスマホやゲームを禁止する、兄弟やクラスメートと比較して嫌味や小言を言う、「なぜこんなのもできないの」と頭や体をたたく、口答えを許さず長時間説教する、「あなたの将来のため」、「自分がやるって言ったんだよね」と正論で子どもを追い詰めるなど、さまざまな形で見受けられます。 教育虐待をする親の特徴としては、自身が高学歴または社会的地位が高い、その逆に学歴コンプレックスがあり子どもに過剰な期待をする、または子どもに執着することで満たされない気持ちを埋めるなどが挙げられます。いずれにしても、厳しいしつけや過干渉の根底にあるのは、子どものためと言いながら、本質は親のエゴや欲求を満たそうとする精神的な未熟さと支配欲です。 親の期待に応えないと愛されないという「条件付きの愛」で育てられた子どもの多くは、親の価値観を絶対と信じ込み、自分はダメな存在だと無意識に責めて無理な努力を続けるか、激しく抵抗する、もしくは諦めて無気力・無関心になります。前述の父親から刺されて死亡した男の子も、母親が「一緒に逃げよう」と言ってもそれを拒否して毎日必死に勉強していたそうです。 子どもをありのまま受け入れているかどうか、冷静に考えてみましょう。自分の価値観に子どもを当てはめ、子どもを変えようとしていませんか。ギリシャ神話に出てくる強盗、プロクルステスは、旅人を家に招き入れ鉄の寝台に寝かせ、旅人の体が寝台よりも長い場合は足を切断し、その逆に短い場合は体を無理に引き伸ばして殺しました。もし、思い通りにならない子どもの学習態度や成績にイライラして、怒鳴りちらす日々が続くのであれば、それは教育熱心を通り越して教育虐待と言えます。 とは言っても、「うちの子は放っておくと宿題をやらない」という家庭も多いと思います。解決策としては、親子で話し合って最低限のラインを決めること。子どもの言い分をしっかりと聞いて、決められた量の宿題が終わったらゲームをしていいなど、親子共に納得できるルールを一緒に決めます。米教育協会では、学年の数に10分をかけた数字(1年生は10分、2年生は20分……12年生は120分)が家庭で宿題に費やす1日の時間としています。ただこの数字はあくまで目安であり、子どもによってかなりの個人差があります。宿題が終わらずに子どもの心身に多大な影響が出ているようであれば、発達障害や学習障害の可能性もあるので、まずは学校の先生に相談してみましょう。 そもそも「何のために勉強するのか」というしっかりとした目的意識がある子どもは進んで勉強します。物事の動機付けには、やりたくてやる内発的なものと、やらなくてはいけない外発的なものがあります。宿題を「将来の夢や目標に近づくため」の手段と捉えられたら、子どもは外部からの報酬や罰を必要とせず自発的に勉強できるようになります。 いずれにしても、子どものやりたいことを尊重することが、自己肯定感が高く他人の気持ちを尊重できる、精神的に自立した大人になるための近道です。親の期待通りには育たないのが子どもというもの。子どもを変えようとせず、「子どもが親の意見を聞くかどうかは子どもが決める」と、子どもを一人の人間として尊重し、温かく見守っていきましょう。
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Author長野弘子 Archives
February 2024
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