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多様な性のあり方を認めようとする世界的な流れの中で、最近よく耳にするのが「アロマンティック・アセクシュアル」です。アロマンティックは他者に恋愛感情を抱かない人のこと、アセクシュアルは他者に性的魅力を感じず、性欲が他人に向かない無性愛者を指し、英語では「Aroace(アロエース)」、日本語では「アロマアセク」とも呼ばれます。それぞれセクシュアル(sexual)、ロマンティック(romantic)の頭に否定を表す「ア(a)」が付きます。 アセクシュアルは生まれつきの性質であり、ストレスやトラウマなどで性欲が低下してしまう勃起不全(ED)や性的欲求低下障害(HSDD)、個人の信念や宗教上の理由による「禁欲」とは異なります。そのため、欧米では異性愛、同性愛、両性愛に並ぶ「第4の性的指向」として認知が広がりつつあります。カナダ・ブロック大学の心理学者、アンソニー・ボガート教授の研究によると、イギリスの人口のうち約1%がアセクシュアルに当てはまり、日本でも2019年に実施された大阪市民へのアンケート調査でアセクシュアルを自認する市民が人口の0.8%いたことが報告されています。 昨年1月、アロマアセクの男女が主人公のTVドラマ「恋せぬふたり」がNHKで放映され、大きな話題となりました。「恋しない人間なんていないもんね」と同僚が話す場面で、恋愛感情を理解できないアロマアセクの女性は複雑な表情を見せます。それに対して、同じくアロマアセクの男性は「恋しない人間もいると思いますよ」と言います。 このドラマでは、「普通」の恋愛をして「普通」に結婚して欲しいと期待する親や周囲の人間も描かれます。実際、「恋人作ったら?」、「選り好みし過ぎ」、「運命の人とまだ出会っていないだけだよ」と言われて悔しい思いをしたり、人間として何かが欠落しているのではと思い悩んだりするアロマアセクは大勢います。「冷血漢」、「愛情がない」などレッテルを貼られ、中傷的な言葉を投げかけられるケースも見られます。 それでは、アロマアセクの人は恋愛や性欲に関してどのような感覚を持っているのでしょうか? 彼らはドラマの恋愛シーンを観てもドキドキして興奮することはなく、体に触れられたり抱き寄せられたりしてもその意味がわかりません。また、他者に魅力を感じても、恋愛感情には結び付かず、性欲が多少あったとしても性的願望にはつながりません。周りに影響され、思春期には試しにつき合う人もいますが、相手の期待に応えられないので長続きしないのが特徴です。 アロマアセクへの大きな誤解のひとつが、「恋愛感情がないので結婚しない」というもの。恋愛感情がなくても、家族や友人にはちゃんと愛情を感じるので、愛情を感じる人と一緒に暮らしたいと望む人もいます。一般的なイメージの結婚とは違うかもしれませんが、信頼をベースにした関係という点では何の変わりもありません。逆に、どんなに深く愛し合っていても時が経つうちに恋愛感情は薄まり、浮気をするカップルもいます。そう考えると、恋愛感情ではない愛情に基づいた絆こそ、パートナーシップに不可欠な要素かもしれません。 現在、さまざまな性的少数派が認知されてきており、アロマアセクだけではなく、漫画やアニメの2次元キャラクターを愛する「フィクトセクシュアル」、物に恋愛感情を抱く「オブジェクトセクシュアリティ」(対物性愛者)なども、フェティシズム(性的倒錯)ではなく性的指向のひとつとして理解され始めています。 他者に対して恋愛感情や性欲を感じるのが多数派とされる一方で、さまざまな愛情の形があり、その指向性や対象は一枚岩ではないことがわかります。自分が少数派の場合、ありのままの自分を受け入れて、それを大切にすること。子どもや周囲にアロマアセクの人がいれば、理解しようとすることから始めましょう。多数派が「普通」で少数派が「異質」という考えをいったん横に置き、お互いにありのままを受け入れられる関係が築けるといいですね。 参考文献1) Asexuality: prevalence and associated factors in a national probability sample https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15497056/ 2)「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」 https://www.ipss.go.jp/projects/j/SOGI/%E7%B5%90%E6%9E%9C%E9%80%9F%E5%A0%B120190425%E5%85%AC%E8%A1%A8%E7%94%A8.pdf 3)恋せぬふたり https://www.nhk.jp/p/ts/VWNP71QQPV/
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Author長野弘子 Archives
February 2024
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