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アメリカで生活していると、周りに養子として育った人や養子を育てている家庭がとても多いのに気付かされます。2010年の米国国勢調査のデータによると、アメリカでは25世帯に1世帯の家庭で養子縁組をしており、年間約13万組の養子縁組が成立しています。現在、養子として育てられている子どもは約150万人おり、実に約50人に1人の子どもが養子という計算になります。一方、日本では2014年の国勢調査によると婿養子などの成年養子を除いた養子縁組は513組のみ。この差はどこから生まれてくるのでしょうか。 いちばん大きな違いは、アメリカでは虐待や育児放棄、逮捕などのさまざまな事情により、子どもを手放す親が非常に多いこと、そして、それを支える里親制度が確立していることが挙げられます。里親制度とは、親と一緒に暮らすことのできない子どもをほかの家族が受け入れる制度で、年間約45万人の子どもが里親に育てられています。米政府の調査によると、保護される児童数は年々増加の一途をたどり、2000年から2017年までの間に保護された子どもはなんと500万人近くにも。その主な原因に薬物問題があり、鎮痛剤として出回っているオピオイドの急激な蔓延が特に悪影響を及ぼしています。実際、薬物関連で保護される児童は2000年の15%から2017年には36%と倍以上に膨れ上がり、オピオイドの濫用が深刻なオハイオ州では全体の半数にも達します。 さて、こうして養子縁組をした子どもに対して、実親について話すことを「真実告知」と言いますが、いつ真実を告げるのかはとても重要になります。一般的に、早めに真実を伝えるほうがショックや不信感が少ないと言われています。最近は、実親との関係をオープンにして、対話や対面の機会も設ける「オープン・アダプション」が主流です。事実を隠しても後々明らかになるからです。年齢に応じて、事実を肯定的に受け止めるような伝え方をする工夫が求められ、たとえば母親が薬物中毒である子どもに対しては、「あなたを生んだママは悪いお薬を飲んで、病気になってあなたを育てることができなくなってしまったの。あなたの今のママは、ずっとあなたと一緒だから安心してね」などと、わかりやすく伝えること。1度きりではなく、折に触れて話題にし、子どもの不安な気持ちを優しく受け止めることが大切です。 里親養子のほかにも、私的な機関を通して国内の子どもを養子にするケースや、海外から養子を迎える国際養子がありますが、人種や文化が異なる場合は特に早めに告知したほうがいいでしょう。国際養子の場合は、実親の情報が少ないこともあり、子どもの自我形成において多大な影響を与える可能性もあります。子どもと一緒に生まれた国の文化を調べたり、その国へ旅行をしたりするなど、理解を深める努力が不可欠でしょう。 養子として育つ子どもは、全体的に不安やうつ、ADHD(注意欠如・多動性障害)、問題行動や愛着障害などの割合が高いと言われています。その一方で、養子を育てている家庭は全般的に経済力があり教育水準も高く、何かしらの問題を感じたら専門機関に相談する割合が高いという「紹介バイアス」、また、養子ということで学校や医療機関が問題を重視しがちな「確証バイアス」などが調査結果を左右しているとも言われています。養子として育つ子どもたちと接していて強く感じるのは、家族を家族たらしめるものは血のつながりではなく、どのようにして心の絆を深めていくかという絶え間ない努力であるということです。 傷を負った子どもの中には、心を固く閉ざし、反抗的態度や問題行動などの試し行為を繰り返す子もいます。だけど、ありのままのその子を受け入れ、その子の幸せを心の底から願う養親の根気強い愛情により、子どもは自分が特別で大切な存在であると少しずつ感じられるようになっていきます。こうして、お互いを大事な存在だと思い、うれしいことも悲しいことも真っ先に共有したいと思える関係が築けたら、それはまぎれもない家族。こうして困難を乗り越えて育った子どもたちが、さらに多様な価値観を受け入れる社会を形成していくことを期待したいですね。
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Author長野弘子 Archives
February 2024
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