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自分の子どもには成功して幸せな人生を送って欲しい。そう願わない親はいませんね。ただ、それが行き過ぎると、子どもが「インポスター症候群」になってしまう危険性があります。インポスターとは「詐欺師」や「偽物」という意味。成功しても達成感を感じるどころか、その逆に「自分には実力がないのに周囲をだまして成功を手に入れた」と、ペテン師のように感じてしまう心理現象で、成功者の間で特に蔓延まんえんしています。 インポスター症候群は、心理学者のポーリン・クランス氏、スザンヌ・アイムス氏により1978年の論文で紹介されました。社会的に成功した女性の多くが自分の能力を信じることができず、「自分の無能さがいつかバレてしまうのではないか」と恐れているというものです。当初の研究では女性に多いとされたものの、最近の研究では男性にも女性と同じ割合で認められ、男性の場合は自己不信を表に出すことは弱さの表れと捉えて隠す傾向が強いことがわかってきました。男女共に、実に7割もの人がインポスター症候群の症状を一度は経験すると言われています。 インポスター症候群には、以下の5つのタイプがあります。 インポスター症候群の特徴 (1)完璧主義者:いついかなる時も完璧でなければいけない。ひとつでもミスを犯したら、自分はダメな人間と思ってしまう。自他共に厳しく、ストレスをため込みやすい。 (2)ヒーロー:自分は人の何倍も努力する必要がある。何もしていない時には焦燥感や罪悪感を覚える。人からの賞賛を求め続け、ワーカホリックになりがち。 (3)生まれつきの天才:誰よりも素早く的確に物事を理解したい。自分で全てを理解するのが当たり前なのでメンターを必要としない。小さな失敗に過剰に落ち込み、難しい課題を避ける傾向がある。 (4)独演者:人と話すと自分の無能さがバレると思い込んでいる。チームプレイは本当の実力を知られることになるので避けたい。誰にも助けを求めることができず、自分を追い詰めてしまう。 (5)エキスパート:学んでも学んでもまだ足りない。評価されるたびに自分はペテン師だと強い罪悪感を覚える。昇進話も「自分には無理」と辞退する。研修を受け続けても自分に満足できず、転々とセミナーを渡り歩く「セミナージプシー」になる可能性も。 インポスター症候群に陥りやすい人は、特定の2タイプの親から育てられていることもわかっています。まず、兄弟や親戚の子どもと比較して欠点を指摘する否定的な親。子どもは、「今の自分ではダメなんだ」、「良い成績を取らないと愛されない」と思い込み、頑張って勉強しますが、欠点にフォーカスする思考回路になっているため、成績が良くても「まだ十分じゃない」と感じてしまいます。次に、その真逆で、成績や容姿など全ての面において子どもが優れているとほめて、大きな期待をする親。子どもは親の期待を裏切ってはいけないと強いプレッシャーを抱え、無理をして勉強も習い事も頑張るのですが、心は疲弊しており、「本当の自分は無能だ」という思いを募らせていきます。どちらのケースも、人間の価値は成績や容姿、能力で決まるという親の価値観に子どもが縛られている状況です。 最近では、成績を重視していない親から育てられても、マイノリティーの立場にいる人はインポスター症候群に陥りやすいことが明らかになっています。黒人やアジア人、女性など、大学や会社で少数派の立場にいる人は、発言しても賛同者が少ないなど構造的な差別や障壁から、自分はほかの人の数倍頑張らなければいけないという感覚を強めてしまうのです。 将来、子どもがインポスター症候群にならないために親ができることは何でしょうか。まずは、結果重視ではなく、どれくらい頑張ったかという努力を認めてあげましょう。そして子どもの気持ちをじっくり聞く時間を増やし、いろんな思いを受けとめてください。 自分の子育てに不安を感じることも、もしかしてインポスターの感覚かもしれませんね。「できる範囲で十分」と自分に言い聞かせ、子どもに対するのと同様に自分の努力を認め、「~すべき」と自他を責める思考回路から自分を解放してあげましょう。
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Author長野弘子 Archives
February 2024
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