https://soysource.net/lifestyle/children_teen_kokoro/microaggression/
心当たりがないのに、なぜか人に避けられた経験はありませんか? 気付かないうちに相手に嫌な思いをさせてしまう、または逆に、他人からの何気ないひと言で嫌な気持ちになる、そんなこともあるかもしれません。こうした言動は「マイクロアグレッション(Microaggression)」と呼ばれ、見過ごされやすい差別として問題視されています。 マイクロアグレッションとは、偏見や差別心に基づく、微妙でささいな攻撃性のある態度や言葉のこと。受け取る側はモヤっとしますが、嫌味と同じで、わざわざ話の流れや雰囲気を壊してまで抗議するほどでもなく、結局はそのまま流してしまうことがほとんどです。たとえば、アメリカで生まれ育ったアジア系市民が「英語が上手だね」などと初対面の人に言われたり、アジア人が白人や黒人との間に生まれた子どもを連れて歩いているとベビーシッターに間違われたり、といった具合。女性に対する「若く見えるね」などの言葉も典型的なマイクロアグレッションの一例です。 自らも長年差別に苦しんできた中国系アメリカ人の心理学者でコロンビア大学心理学科教授のデラルド・ウィング・スー博士は、マイクロアグレッションを以下の3タイプに分類しました。 (1)小さな攻撃(Microassault) 冗談めかして行われる意図的な差別。怒って言い返すのが難しく、皆と一緒に笑いながら心で泣くことも。例:特定の人種や民族のしゃべり方をまねする。ステレオタイプ的な特徴を面白おかしく話す。 (2)小さな侮辱(Microinsults) 相手を傷付ける意図はないものの、無意識から差別的な言動を行う。例:アジア人に「数学得意でしょ」と言う。黒人の髪の毛を勝手に触ったり、肌の色についてコメントしたりする。比較的浅い付き合いのLGBTQの人に性的な質問をする。 (3)小さな無効化(Microinvalidations) 差別を矮小(わいしょう)化する。例:白人が黒人に対して「大事なのは中身だから肌の色は関係ないよ」と言う。 スー博士によると、この中でいちばんダメージを受けるのが「小さな無効化」です。例に挙げたように「大事なのは中身」と言われたら、表向きは正論なので何も言い返せず、心にモヤモヤした嫌な気持ちが残ります。こうした「肌の色は関係ない」というスタンスは「カラーブラインドネス」と呼ばれ、もともとはリベラルな思想ですが、根強く残る人種差別を語る口封じになり、逆に抑圧を強めると現在では考えられています。 マイクロアグレッションによる精神的ストレスは、受け取る側によっても大きく異なります。たとえば、「残業できる?」、「子どもを理由に休まれたら困るよ」といった上司の言葉は、育児に協力的な夫や親のいる女性と、頼れる人のいないシングルマザーを比べた場合、心理的負荷は全く異なるでしょう。本人の能力や適性とは関係なしに、環境要因によって不利な状況が生まれる場合もあるのです。恵まれた環境にいるママ友からの、「私も大変だし、気持ちわかるよ」といった励ましの言葉が逆にストレスになることも。 「そう言われたら、気にして何もしゃべれなくなってしまう」と思ったあなた、そういう人は他者の気持ちに敏感なのであまり気にする必要はないでしょう。その逆に、「私は絶対に大丈夫」と思った人ほど要注意。差別意識は24時間、空気のようにまとわりつき、私たちの無意識に取り込まれることを認識しましょう。そうすれば、会話の内容も自然と変わってきます。 大きな戦争も、最初の一歩は小さな差別意識から生まれます。まずは、マイクロアグレッションに気付き、自分が嫌な気持ちを感じたら、正直に相手に伝えてみましょう。また、子どもにマイクロアグレッションの概念を教え、外見や人種、ジェンダーに関するコメントは、知らないうちにその人を傷付けている可能性があることを伝えましょう。 相手の心がどうやったら満たされ、楽になるのかを意識しながら日常会話をする。そんな習慣を親子で身に付けられるのが理想です。そうして、平和の輪を世界中に広げていきたいものですね。 (参考記事) スー博士の著書『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション――人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』(https://amzn.to/3qeILuT)
0 Comments
|
Author長野弘子 Archives
February 2024
Categories |