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ある日、クリニックに通う元気いっぱいの5歳の男の子が、ピンク色のスカートをはいて来ました。お母さんによると、店で強くせがまれてしぶしぶ買ってあげたら、学校にもその格好で行くので困っているとのこと。昔から、女の子っぽい服や遊びに興味を持つ男の子や、外を駆け回ってスポーツに興じる男勝りな女の子は、学年に何人かはいたものです。こうした子どもたちの中のごく一部には、身体的な性別とジェンダー・アイデンティティー(性自認)に先天的な違いのある「トランスジェンダー」が潜んでいます。 彼らは第二次性徴が始まる思春期になると、心と体の性別のずれに深く苦しみ、多くがうつ状態になり、自殺を考えるまで追い詰められます。アメリカに推定140万人いるとされるトランスジェンダーの自殺未遂率は41%にも上り、アメリカ全体の平均自殺未遂率(1.6%)の約30倍。精神的な苦痛を軽減して、自分らしく幸せに生きるためには、早期介入と周囲の温かい支援が必要です。 トランスジェンダーのほか、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルなど多様な性のあり方を総称した言葉である「LGBTQ」は2000年代初頭から急速に浸透していき、今では多くの人々に受け入れられています。ちなみに、Q は特定の性のあり方にとらわれないという意味の「Queer」や自分でもはっきりわからない状態の「Questioning」を意味します。 現代の性のあり方は、男と女という2種類に単純に分けられるものではなく、身体的な性別、性自認、そして性愛・恋愛の対象を示す性的指向のスペクトラム(連続体)上にあるとされています。体の性には男性、女性、インターセックス(非定型の性発達)があり、性自認にはシスジェンダー(体と心の性別が同じ人)、トランスジェンダー(体と心の性別にずれのある人)、ノンバイナリー(男性でも女性でもないと位置付ける人)、ジェンダーフルイド(男性と女性の間を自由に行き来する人)などがあります。 なお、トランスジェンダーの中で、体の性は女性で性自認は男性の人を「FtM」、体の性は男性で性自認は女性の人を「MtF」と呼びます。また、性的指向には、異性愛者、同性愛者、両性愛者、無性愛者、全性愛者(二元的な性別にこだわらない人)などがあります。いろいろありすぎて混乱しそうになりますが、自己紹介の際に「My preferred pronouns are she/her/hers.」など、性自認を示す代名詞を定義するのは一般的になり、中には「They/their/theirs」と呼ばれるのを好む人もいます。 LGBTQ 人口は年々増えており、アメリカでは成人の 4.5% に当たる約1,100万人に上ります。同性婚も2000年代初頭から西欧を中心に合法化が進み、2015年には全米で同性婚が合法化されて大きなニュースとなりました。その一方で、根強い宗教的偏見と差別がいまだに存在しているのも事実です。同性間の性行為を違法とするソドミー法は、2003年に撤廃されるまで13州で存在していました。また、トランプ大統領は2017年にトランスジェンダーの人々の米軍への入隊を認めないとし、米国防総省は4月12日、米軍入隊を原則禁止する新たな基準の適用開始を発表しました。こうした時代の流れに逆行するような政策は、LGBTQコミュニティーに対する偏見を助長し、彼らを深刻な危機にさらすことになりかねません。 LGBTQの人々は、実際にその多くが学校でいじめを受けたり、偏見により失業したりしたことがあるほか、性的暴行や暴力を振るわれた経験も持っています。性自認や性的指向は、子育ての仕方や環境とは関係がなく先天的なものであるため、子どもを頭ごなしに否定し、「矯正」しようとするのは逆効果です。トランスジェンダーの人々の自殺未遂率も、家族から拒否された場合は6割にも達し、家族が肯定的に受け入れた場合は4%までに減少します。 もしも自分の子どもがそうかもしれないと思った場合、最初から認めることは難しいかもしれませんが、まずはその子をその子たらしめている個性のひとつだと考え、専門機関へ相談するなど支援態勢を整えることが大切でしょう。
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Author長野弘子 Archives
February 2024
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