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「あの人は怒りっぽい性格だね」、「私は心配性なの」、「なぜそんなにやる気がないんだ」など、私たちが性格だと思っている個人の特徴は、実はストレスに対する神経反応なのかもしれません。生物には内臓の機能や代謝といった体内環境を調整する自律神経があり、体をリラックス状態に導く「副交感神経」と、活発化させる「交感神経」の2種類に分かれます。副交感神経が優位な状態では、心身共に落ち着き、消化・吸収、免疫機能もアップします。しかし、ストレスを受け、危険を察知すると交感神経が優位になり、呼吸や心拍数、血圧が上昇し、大量のエネルギーを筋肉に送って、戦うか逃げるかの「サバイバルモード」になります。 精神生理学・行動神経学者のステファン・W・ポージェス博士が近年提唱している「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」によると、副交感神経はさらに、社会交流を促す「腹側迷走神経」と、活動をシャットダウンする「背側迷走神経」があり、前述の交感神経を含めて3つの神経システムが自己防衛機能を担っているとのこと。これらは進化の過程において順番に発達してきたものです。 まず、魚類時代に登場したのが背側迷走神経。安全な環境下では消化・吸収機能を高めますが、危機に瀕ひ んすると機能停止し「凍りつき」反応を起こします。その次、爬はちゅう虫類時代に発達したのが危機に立ち向かうための交感神経、そして哺乳類に発現したのが社会的つながりに関わる腹側迷走神経です。 腹側迷走神経は、群れの中で互いを守り合って生存確率を高めるための社会交流システムと言えます。人類はほかの動物に比べて体が弱いため、この神経が高度に発達しています。顔や喉、耳、心臓、肺に延びる神経系により豊かな表情や声のトーンが生まれ、友好的なコミュニケーションが実現するわけです。SNSで他者と関係を持ち安心したいという欲求も、この腹側迷走神経の働きによるものかもしれませんね。 3つの神経システム発達の流れ 背側迷走神経(魚類期) 「不動化」や「凍りつき」反応を起こす「低覚醒」システム ⬇︎ 交感神経(爬虫類期) 戦うか逃げるかの反応を起こす「過覚醒」システム ⬇︎ 腹側迷走神経(哺乳類期) 個体間のつながりを促進する「社会交流」システム この3つの神経システムは階層構造をしており、危険を察知すると、いちばん新しい神経システムが優位になります。たとえば、誰かと意見の相違があれば、腹側迷走神経がまず優位になり友好的な話し合いを試みます。それがうまく行かなかった場合には交感神経が優位になり、激しく口論になったり、対話を打ち切ったりなどの闘争・逃走反応(過覚醒)を起こします。最後に、強い恐怖などを感じると背側迷走神経が優位になり、思考停止して言葉が出なくなる、体が動かないなどの「凍りつき」(低覚醒)が生じます。 ストレスや危機に際してどの神経システムが優位になるかは個人差があり、自分の意思ではコントロールできません。意識的な知覚(Perception)と区別して、こうした体の神経反応を「ニューロセプション(Neuroception)」と呼びます。過去のトラウマ体験やストレスの多い環境下に置かれたことにより、ニューロセプションが過覚醒や低覚醒に傾きやすい人もいます。過覚醒が続くと、怒りや不安、焦燥感に苦しんだり、高血圧や睡眠障害の症状が出たりすることも。その逆に低覚醒状態が続くと、感情の起伏にとぼしくなり、無気力な状態に陥って、体のだるさや低血圧の症状も見られるように。 その対策ですが、腹側迷走神経システムを強化することがいちばん。最適な方法は、ポージェス博士の提唱するニューラル・エクササイズです。これは、社会的な関わりを通して自律神経の乱れの調整と安定を繰り返すことで、過覚醒や低覚醒になりにくくするというもの。たとえば、赤ちゃんが泣いたらあやす、子どもの愚痴や文句を聞いてあげる、しゃべりたがらない時には無理に聞き出さないなど、相手が心の底から安心できる場所を提供するようにします。ストレスフルな現代社会、多くの人が過覚醒の「サバイバルモード」で生きています。日常的にリラックス状態を感じる時間を増やし、社会交流システムの神経を活性化させていきたいですね。 参考文献ポリヴェーガル理論入門:心身に変革をおこす「安全」と「絆」 ステファン・W・ポージェス著 https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365540.html
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Author長野弘子 Archives
February 2024
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