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9月から本格的な対面授業が再開しました。1年半ぶりに学校へ戻った緊張と不安感から、頭痛や吐き気を訴えたり、行きたくないと泣き出したりする子どもも大勢いたそうです。もともと集団生活を苦手とする内気なタイプの子は、クラスで緊張して、ひと言もしゃべることができずに1日が過ぎてしまうことも珍しくありません。新しい環境に慣れたら話せるようになる子がほとんどですが、中には話せない状態が長期間にわたり続く子もいます。こうした子は、場面緘黙症(SM)を発症しているかもしれません。 SMとは、家ではよくしゃべるのに、学校など特定の場所ではほとんど全くしゃべれない状態が1カ月以上続いており、本人もとても辛い思いをしている状態です。アメリカ言語聴覚学会(ASHA)によると、子どもの約0.5%に見られ、大抵は小学校に上がる前から徴候が見られます。診断される年齢は6〜8歳頃と発症時期よりも遅く、その理由は、単に引っ込み思案な子と思われて見過ごされてしまうからです。女の子に多く見られ、その割合は男の子の約2倍です。 SM発症の要因としては、生まれながらに不安や緊張を感じやすい繊細な気質が挙げられます。親の育て方とはあまり関係ありません。また、海外に引っ越して言葉がわからない不安な状況に置かれた、先生やクラスメートから傷付くことを言われた、などの環境的な要因も大きく影響します。周囲からは「無視している」、「反抗的」などと誤解されがちで、本人もそれを敏感に察知するため、より心を閉ざしてしまいます。「今さら話したら変に思われる」と思い込み、さらに長引く場合もあるので、できるだけ早期に介入することが大切です。 治療法としては、まずは本人と場面緘黙について話し合うことから始めます。大抵の子は、小学校に上がる前には自分がしゃべれないと自覚しており、どうしていいかわからずにひとりで悩んでいます。まずは、緘黙は治るということを教えてあげましょう。「話したくない」と拒否している子も本当は困っているはずなので、「誰もが練習したら話せるようになる」と伝えます。 次に、学校側にもSMについての理解を深めてもらいます。「ひと言でいいからしゃべりなさい」などの無理強いや焦らせる言葉は逆効果になると伝え、本人がその場にいていいんだと思えるように、温かく見守る環境を整えます。クラスで緘黙に関する絵本を読んだり、本人が書いた手紙や家庭での様子を撮ったビデオを見せたりと、先生やクラスメートに知ってもらうだけでも、その子の不安感や居心地の悪さは和らぎます。 本人の話す練習については、あくまでその子の意見を聞きながら無理のない目標を立て、根気強く取り組みます。最初から大勢のクラスメートの前で話すのは難しいので、まずは先生やカウンセラーが家庭訪問などで親との会話を聞くことから始めます。質問をして「はい・いいえ」などの簡単な言葉やジェスチャーで答えてもらう、仲の良い友だちと手紙の交換をする、などとできそうなものからチャレンジします。 また、見知らぬ人と話すほうが不安を感じにくいので、旅行先で現地の人と話す、新しい趣味や習い事を始める、店で買い物をしてレジの店員さんにお礼を言う、なども良いですね。小さな成功体験をたくさん積ませ、自信を付けてあげましょう。ほかにも、自然に触れて運動をしたり心身共にリラックスしたりする機会を作る、不安を軽減させる感情コントール・スキルを学ぶ、「間違ったことを言ってはいけない」という思い込みを正す、といった方法も有効です。 孤立感を覚えやすいSMの子にとって、友だちはとても大切。コミュニケーションの方法は言葉だけではありません。音楽やスポーツ、ゲーム、アニメなど好きなものを分かち合うことで絆が深まります。一緒にゲームをするだけで、何も言わなくても心は通じ合うもの。安心できる人、場所、状況を少しずつ増やしていき、自分は受け入れられているという経験を積んでいけば、時間はかかりますがSMは克服できます。焦らずじっくり向き合うことで、子どもの心が開いていくといいですね。 (参考資料) 「場面緘黙症」アメリカ言語聴覚学会(ASHA) https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/selective-mutism/#collapse_2
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Author長野弘子 Archives
February 2024
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