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子ども時代の不遇な経験が、成人してからの心身の健康や寿命に極めて有害な影響を与えることが最近の研究で明らかになっています。CDC(米疫病対策センター)と医療保険会社のカイザー・パーマネンテが1995年から1997年にかけて行った調査によると、虐待などの逆境的小児期体験(ACE:Adverse Childhood Experiences)を経験した子どもは、成人してからさまざまな病気になるリスクが高まるという結果が出ています。 ACEは、精神的虐待、身体的虐待、性的虐待、育児放棄(ネグレクト)、情緒的ネグレクト、親の依存症、親の精神障害、母親のDV被害、離婚や別居、親の犯罪行為という10項目に分けられます。アメリカでは6人に1人がそのACE10項目のうち4つ以上に当てはまり、当てはまらない人に比べて、学習や素行問題が32.6倍、うつは4.6倍、自殺未遂は12倍、アルコール依存症は7.4倍に増加すると報告されています。さらに、線維筋痛症が4倍、肺疾患は3.9倍増加し、がん罹患率も1.9倍、脳卒中も2.4倍に。寿命に至っては、約20年も短くなるとのことです。子ども時代のトラウマ体験が、成人後の健康状態にこれほど大きな影響を与えるのはなぜでしょうか? 人間の脳には危険を察知する部位として、扁桃へんとう体があります。この扁桃体が過剰反応することで、体は緊急事態だと認識し、戦ったり逃げたりするためのエネルギーを出すホルモンのコルチゾールやアドレナリンを分泌します。しかし、過剰に分泌されると、次第に免疫反応が暴走し始め、逆に炎症反応を起こしてしまいます。常に危険やストレスにさらされている子どもは、体が緊急事態だという指令を出し続け、慢性的な炎症が続くのです。これが、ACEにより大人になってからの健康リスクが高まる要因とされています。 心と体は互いに大きく影響し合っています。私たちには体温や代謝といった体の機能を休むことなく見張っている「自律神経」があり、心と体を休ませる「副交感神経」と、活発化させる「交感神経」が絶妙なバランスを取ることで、日々の生活が成り立っています。通常は「リラックスモード」である副交感神経が優勢で、差し迫った危険もなく、心身共に安心して深い思考ができ、クリエイティブなアイデアも生まれやすい状態です。多くの細胞の修復も、このリラックスモードの際に行われます。逆に、交感神経は前述した「戦うか逃げるか」の非常事態に優勢となり、生き延びるために何でもやる「パニックモード」の状態と言えます。ACEによりストレスにさらされ続けることで、このパニックモードが常態化してしまいます。これでは心も身体も疲弊するわけですよね。 なお、女性は男性よりも被害に遭いやすく、ACEスコアが高い傾向が見られます。さらに、ACEが及ぼす影響も男性より有害で、女性はACEスコアが2以上でも自己免疫疾患のリスクが大幅に上がると言われます。もともと、女性ホルモンのエストロゲンが自己抗体を増やし、男性より抗体反応が強力なことから、女性は自己免疫疾患を発症しやすいとされています。 「自分のせいじゃないのにパニックモードに設定されてしまったなんて、どうすればいいの?」と落ち込む人もいるかもしれません。また、ACEに当てはまらない人でも、繊細な人はパニックモードに陥りやすいので、意識してリラックスモードに切り替える必要があります。 切り替える方法として、ACEの概念を広めたナディン・バーク・ハリス医師が提唱しているのが、まずは十分な睡眠と栄養のある食事を取ること。次に、運動と瞑想、そして、セラピーや信頼できる人間関係などの精神的サポートです。これらを日常に意識して取り入れることで、脳機能やホルモンバランスが改善され、ストレスや不安な気持ちが大幅に軽減されます。そして、心身の修復を促すリラックスモードへと次第に戻っていきます。 自分がどちらのモードにいるのかを意識しながら、子どもの世代に負の遺産を引き継がないようにセルフケアをしていきたいですね。 参考記事 (1) Adverse Childhood Experiences (ACEs) https://www.cdc.gov/vitalsigns/aces/index.html (2) Adverse Childhood Experiences (ACEs) https://burkefoundation.org/what-drives-us/adverse-childhood-experiences-aces/
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ティーンの自傷行為がコロナ禍で急増しました。アメリカでは2020年における13〜18歳の自傷行為が、前年比で99.8%増加したとのこと。コロナ以前にも、自傷行為は年間約200万件に及び、ティーンエイジャーの17%、大学生の15%が自傷行為を経験していると報告されています。成人では5%、5〜10歳の子どもでは1.3%と比較的少ないため、ティーンに特有の症状とも言えます。男女の比率は、女子65%、男子35%と女子が男子の2倍近くあり、バイセクシャルでは約半数近くにも上ります。 なぜ、自分で自分を傷付けてしまうのでしょうか? 自傷行為の原因はさまざまですが、一般的なイメージである「誰かの気を引くため」に行われるケースはごくまれです。強い怒りや無力感、絶望感、孤独感といった耐え難い心の痛みから逃れるために、突発的にやってしまうことがほとんどです。また、自己評価が低く自分を責める傾向にある人や誰にも悩みを打ち明けられない人なども、自分を罰する行為として自傷行為に及ぶことがあります。本コラムで以前取り上げた解離(トラウマから自分の心を守る防衛手段として意識を逃し、自分が自分でないと感じる)症状のある人はより深刻で、意識がないまま気付いたら自傷しており、その逆に、自分の感覚を取り戻すために自傷行為に及ぶことも。 痛みというものは通常は避けたいものですが、けがなどで痛みを感じると、それを和らげるために脳内麻薬のβエンドルフィンやエンケファリンが分泌され、一時的に気分が高揚したり逆に落ち着いたりします。この気分を求めて自傷行為を繰り返し、さらなる依存に陥ります。自殺企図(実際に自殺を試みる)との大きな違いは、「死ぬため」ではなく「生きるため」の手段として、やむにやまれずやっているということ。なので、何とか止めようとして「やめなさい」と怒るのは、生きるための手段を奪い、当人をさらに追い詰めることになるので逆効果です。 それでは、子どもが自傷をしている場合、どのように対処したらいいのでしょうか。まずは、自傷に至るほどの心の苦しみを理解したうえで、とにかく優しく接してあげること。自傷は、安心して悩みを相談できる場所が存在しなかったことを示しています。その悩みを聞き、ほかの方法で心の苦しさを解消できるようにすることが大切です。 具体的には、自傷行為のきっかけや状況を客観的に見るため、「行動記録表」をつけます。いつどこで誰と何をしたか、その時の気持ちや考えなどを記録することでパターンがわかり、自分の記憶が曖昧な場合は解離を起こしているなどと気付きます。 また、自傷行為をほかの方法に置き換える「置換スキル」も有効です。自傷の衝動が起こったら、赤ペンで手首に線を引く、手首にはめた輪ゴムをはじく、氷を握りしめる、枕やクッションを殴る、広告の紙などをビリビリに破る、大声で叫んだり歌ったりするなどの代替行為を代わりに実践します。 ただし、こうした方法は、最初は効果があっても次第に慣れてくるので、根本的な問題を解決する必要があります。発達障害、もしくは不安障害や摂食障害などに起因している可能性も考えられるので、専門家の診断を受けることを検討してください。たとえば、不注意優勢型の注意欠如・多動性障害(ADHD)の女性は、自分の髪の毛を抜いてしまう抜毛癖(トリコチロマニア)など、自己刺激行動を起因とする自傷が多いと言われています。 自傷をするティーンの中には、友だちが自傷をしており、親子げんかなどでイライラした時に、ふとその友だちのことを思い出して「自分もやってみよう」と行動に移す場合もあります。子どもだけで自傷をやめさせるのは至難の技なので、子どもが安心して悩みを打ち明けられるような家庭の雰囲気作りを日頃から心がけましょう。そして、自傷をする理由に理解を示したうえで、ほかにもたくさんの選択肢があること、友だちや自身が自傷をしていたら教えて欲しいことを伝えましょう。小さなサインを見逃さないことが大切です。 参考記事 (1) The Impact of COVID-19 on Pediatric Mental Health https://s3.amazonaws.com/media2.fairhealth.org/whitepaper/asset/The%20Impact%20of%20COVID-19%20on%20Pediatric%20Mental%20Health%20-%20A%20Study%20of%20Private%20Healthcare%20Claims%20-%20A%20FAIR%20Health%20White%20Paper.pdf (2) Who self-injures? By American Psychological Association https://www.apa.org/monitor/2015/07-08/who-self-injures (3) Self-Harm Statistics and Facts https://www.therecoveryvillage.com/mental-health/self-harm/self-harm-statistics/ https://soysource.net/lifestyle/children_teen_kokoro/kokorosodate_0909_60/
7月8日に発生した安倍晋三元首相の銃撃・死亡事件は、世界に衝撃を与えました。逮捕された山上徹也容疑者は犯行の動機を、母親が旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の熱心な信者で総額1億円以上を献金した結果、「破産し、家族がバラバラになった」ことで恨みを募らせ、教団と関係の深い安倍氏を狙ったとしています。今回の事件により、悪質な霊感商法で90年代のワイドショーを騒がせた旧統一教会に再度スポットが当たり、報道が下火になった現在も600億円近くの献金を日本で集めていたという事実が明るみになりました。 著名な精神科医であるロバート・J・リフトン氏は、カルトの特徴として「崇拝されているカリスマ的リーダー」、「洗脳や強制的な説得」、「信者の経済的・性的・その他の搾取」の3つを挙げています。特に重要なのが「洗脳」です。 統一教会を脱会した『マインドコントロールの恐怖』の著者、スティーブン・ハッサン氏によると、洗脳は「解凍」、「変革」、「再凍結」という3つのプロセスを経て完成します。「解凍」とは、睡眠を奪うなど心身に大きな負荷をかけ、自我を揺さぶり自己の信念や思考体系を崩壊させること。次の段階の「変革」で、繰り返し新たな信念を植え付け、古い人格が崩れた心の空白に新しい人格を導入し、定着させていきます。最後の「再凍結」では、新たな人格を強化するために名前、目的、役割、活動を与え、時間やお金を貢がせて社会的・経済的・心理的に孤立させて教団への依存度を高めます。教義に疑問を持つことはタブー。自分たちは選ばれた存在で、非信者は「サタン(悪魔)」という風に、恐怖心と純粋な信仰心をたくみに利用しながら搾取システムが確立されるのです。 旧統一教会の教義では、植民地支配により韓国を苦しめた日本は悪い「サタンの国」、「エバ国家」であり、「アダム国家」の韓国に貢ぐのが使命といった極端な反日思想が根本にあります。合同結婚式で韓国人に嫁いだ日本人妻が虐待されても耐え忍び、常軌を逸した高額献金による自己破産もやむなし、という事例が後を絶たないのは、その教えが大きな要因。教団の運営資金の7割は日本から来ており、搾取されたお金の多くが、政治的な影響を強めるためにアメリカなど世界中で利用されています。 カルトが社会問題化する中、「自分の子どもがカルトにだまされないためにはどうすれば?」という問い合わせも目立っています。私たち親はどう気を付ければ良いのでしょうか。まず、子どもには、カルト団体というものがあること、またその手口などもしっかり伝えましょう。たとえば、カルト入信の3分の2は、家族や友人、会社の同僚を通して行われます。困っている時に親身に話を聞いてくれた友人からのさりげない勧誘ほか、ボランティア団体や大学サークルなどのフロント団体を使っての偽装勧誘も典型的なパターンです。 筆 者 も、ア メ リ カ の 大 学 で UPF(Universal Peace Federation)と名乗る国連NGOの会議に参加したことがあります。平和活動の紹介やフレンドリーなメンバーたちとの語らいはとても楽しかったのですが、終了後「この団体の母体は統一教会」と言われ、あわてて会場を出たことがありました。残っていた参加者も大勢いたので、帰り道に「だまされる人も多いだろうな」と思ったことを今でも覚えています。 最近では、勧誘の場がSNSを中心にオンラインへとシフトしてきているので厄介です。たとえば、アニメが好きでSNSに関連コメントなどを投稿していると、信者が好意的なコメントを残し、何回かコメントのやり取りをしてから、アニメイベントに参加しないかと誘うのです。正体を明かすのは仲良くなってから。「世間では悪く言われるけれど、本当はそんなに悪い人たちじゃない」と子どもが言い出したら要注意です。その場合、頭ごなしに非難して止めると逆に反発し、孤立していく可能性もあります。早急に専門家に支援を求めましょう。 反社会的な活動による多くのトラブルが報告されながらも、なお力を保ち続けているカルト。学歴や貧富の差に関係なく、誰もが洗脳される可能性があると心に留めておくことが大切です。 参考記事 1.旧統一教会献金の実態は?内部資料独自入手【報道特集】 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/116657?display=1 2.Cults in the Age of Influence https://www.psychiatrictimes.com/view/cults-in-the-age-of-influence 3.Watch out for tell-tale signs https://www.theguardian.com/commentisfree/belief/2009/may/27/cults-definition-religion マインド・コントロールの恐怖 https://www.amazon.co.jp/-/en/スティーヴン–ハッサン/dp/4765230716/ref=sr_1_1?qid=1660409326&refinements=p_27%3Aスティーヴン+ハッサン&s=books&sr=1-1&text=スティーヴン+ハッサン 4.「旧統一教会の会見について」全国霊感商法対策弁護士連絡会が記者会見https://www.youtube.com/watch?v=6TAEw136rrQ 統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福 https://www.amazon.co.jp/統一教会–日本宣教の戦略と韓日祝福–櫻井–義秀/dp/4832967207 5.「フロント団体と誤解されるのはしょうがないが…」旧統一教会と同一視される国際勝共連合会長の言い分 https://president.jp/articles/-/60422 https://soysource.net/lifestyle/kodomoteenkokoro_0812/
どうしても学校に行けずに長期間休んでしまう、そんな不登校児童生徒が日本で増え続けています。昨年10月に政府が発表した調査によると、不登校の小中学生は約19万6,000人と、前年度から1万5,000人近く増加し、過去最多を記録。全児童生徒数に占める割合は小学校で1.0%、中学校で4.1%に上ります。文部科学省によると不登校児童生徒とは、病気や経済的といった特別な理由がなく、精神的、身体的、社会的な要因により「年間30日以上欠席した者」と定義されています。 アメリカでは国による明確な定義はありませんが、年間の授業日数(160〜180日)の約10%である3週間(15授業日)以上を欠席すると、学業に支障が出たり留年のリスクが高まったりするとされています。アメリカで2015〜16年度に3週間以上欠席した児童生徒は700万人以上おり、全児童生徒数の約16%を占めています。ちなみに日本の年間授業日数は200日前後ですので、その10%に当たる年間20日以上の欠席日数で調べるとさらに数が増えると推測されます。 不登校の典型的なパターンは、朝に元気がなく、「学校に行きたくない」と行き渋ります。泣き叫んだり癇癪を起こしたり、頭痛や腹痛などの身体的症状が出る場合も。最初は月に数回だったのが次第に増えていき、親も焦って説得したりなだめたりと、何とか学校に行かせようとしますが効果はなく、学校からのプレッシャーもあり親子共に精神的につらい状態が続きます。ホームスクールやオンラインとのハイブリッドなど多様なサービスが充実しているアメリカでも、子どもは学校に行けない罪悪感を強く感じています。 親にとってみれば、不登校は「問題の始まり」に見えるかもしれませんが、実は「問題の最終段階」だと訴えるのは、信州大学医学部の本田秀夫教授。行き渋りは、「学校に行く自分っていう人生を捨てたという、もう最後の段階です」。この段階から頑張っても行けるようになる確率は低いので、休ませてあげるのが大事。日本政府も2016年には「不登校を問題行動と判断してはならない」とし、2017年には不登校児童生徒を学校に戻すことが目標ではなく「社会的に自立すること」と大きく方針転換。フリースクールへの参加を出席扱いにする学校も増えてきました。 不登校の子どもにはどう接するべきなのでしょうか? まず、子どもたちが最も求めているのは「ただ理解して見守ってくれる大人の存在」です。彼らの多くは学校に行けない自分を責め続けています。過度な期待や励ましは思い切って手放しましょう。「学校へは行かなくていいよ」とその子の選択を尊重し、「何かできることがあったら教えてね」と子どもの主体性を陰で支えましょう。 次に、「ほっとできる居場所」を作ってあげましょう。たとえ自分の部屋にいても、親が「学校に行って欲しい」という思いでいると、家の中にも居場所がなくなってしまいます。とにかく何も考えず休むことのできる場所が必要です。子どもの気持ちを十分に聞いてあげ、「途中でやめてもいいよ」、「逃げてもいいよ」と伝え、家庭を居心地のいい安心の空間にします。 さらに、「好きなことのできる時間」を確保します。小学2年から中学3年まで学校に行かずにゲームにハマったという小幡和輝さんは、ゲームに費やした時間がおよそ3万時間。著書『学校は行かなくてもいい』の中で「音楽、パソコン……なんでもいいからとことんハマれ!」と訴える小幡さんは、高校3年生の時に起業し、現在ではオンラインでゲームを教える会社、ゲムトレを経営しながら、「不登校は不幸じゃない」というメッセージを込めたイベントを日本全国で開催しています。 これからは、学校の成績よりも何かにひとつでも秀でている人が重用される時代。学校は選択肢のひとつでしかありません。親自身も先行きが見えない不安感や本音を話し合える、支援や息抜きの場を見つけましょう。子どももまた、やる気を伸ばして、同じように悩んでいる仲間と出会える場所が必ず見つかるので大丈夫。焦りを手放したときに子どもへの対応が変わり、子どもも変わっていきます。子どもの生きる力を信じてあげましょう。 (参考記事) 1.https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211217/k10013362471000.html 2.https://www2.ed.gov/datastory/chronicabsenteeism.html 3.https://www.youtube.com/watch?v=ywwVQkwDC70 4.https://www.obatakazuki.com/4800060 5.「学校は行かなくてもいい ――親子で読みたい「正しい不登校のやり方」」 https://www.amazon.co.jp/学校は行かなくてもいい-――親子で読みたい「正しい不登校のやり方」-小幡和輝/dp/4907838905 https://soysource.net/lifestyle/children_teen_kokoro/exercise/
子どもの運動不足で悩むのとは逆に、「うちの子は運動のし過ぎで……」と悩む親も大勢います。家族や友人との約束よりも運動を優先し、運動ができないと強い焦燥感に駆られるようであれば、それは「エクササイズ中毒」かもしれません。 エクササイズ中毒者は90年代から徐々に報告が増えています。主な特徴は生活の全てが運動を中心に回っていること。けがをしても運動がやめられず、強迫的に繰り返し、日常生活に支障をきたすほど激しい運動を続けます。アメリカでは成人人口の0.3〜0.5%がエクササイズ中毒と推定されていますが、この数字はアスリート学生の間では4%、スポーツ愛好家では8〜9%にまで跳ね上がります。 スポーツのクラブやチームに入っている子はより長い時間運動をして、ある程度はほかの活動を犠牲にする必要もありますが、彼らとエクササイズ中毒者の違いは何でしょう。専門家が考案した「エクササイズ中毒目録(EAI)」を目安にチェックできます。以下の項目で、「全く当てはまらない」を1、「完全に当てはまる」を5として、1から5までの点数を合計し、24〜30点になるとエクササイズ中毒の可能性が高いと言えるでしょう。 あてはまる人はエクササイズ中毒? ❶ 私の人生で最も重要なものは運動だ。 ❷ 運動のし過ぎが原因で、家族や友人と対立することがある。 ❸ 気分転換のために運動をしている(例:気分を良くするため、問題を忘れるため)。 ❹ この1年間で、日々の運動量が増えた。 ❺ 毎日運動をしないと落ち着かず、いら立ちや悲しみを感じる。 ❻ 運動量を減らそうと試みたことがあるが、結局いつもと同じくらい運動をしてしまう。 特に真面目で完璧主義、負けず嫌いな性格の子は、知らず知らずのうちに自分を追い詰め、気付いた時にはやめられなくなっている場合も。少しでも気になるようであれば主治医や専門家へ相談しましょう。 エクササイズ中毒には、さまざまな原因があると考えられています。まず、一次的エクササイズ中毒は運動自体が中毒のもとで、ギャンブル中毒ととても似ており、興奮を求めて運動量が増え、報酬系の反応から依存が形成されていきます。その一方で、二次的エクササイズ中毒の原因はボディーイメージや低い自己肯定感から来ており、体重や外見を変える目的で運動がやめられなくなるというもの。自分の美醜に極端にこだわる強迫観念を持ち、鏡に映った自分を見続けるなどの強迫行動を繰り返す「身体醜形障害」との関連性も指摘されています。 また「摂食障害」を併発している場合も多く見られます。最近の調査では、摂食障害の患者間ではエクササイズ中毒が通常の4倍近くとされ、他の調査でも摂食障害の患者の実に21%がエクササイズ中毒の可能性があるとの報告があります。 こうした身体醜形障害や摂食障害が背景にあるエクササイズ中毒では、女性は「太り過ぎ・体が大き過ぎる」と思い込み、無理なダイエットに長時間の運動を重ね、命の危険に至るまで身体が衰弱してしまうケースも少なくありません。逆に男性は「痩せ過ぎ・体が小さ過ぎる」と思い込み、ステロイドやプロテインを過剰摂取しながら体調を崩すのも構わず筋トレを長時間行う人も。こうした症状はビッグ(大きい)とアノレクシア(拒食症)を組み合わせた「ビゴレクシア(bigorexia)」と呼ばれ、ジム通いの若い男性やボディビルダーの間で増加しています。 人気ユーチューバーのフィットネスコーチ、スコット・マレー氏が今年2月に心不全のため、27歳という若さで亡くなりましたが、彼も摂食障害とエクササイズ中毒に苦しんでいたとされています。嘆き悲しむ多くのファンの中には、自分や友人もエクササイズ中毒かもしれないと初めて認識した若者もいることでしょう。 運動は健康的というイメージがあるからこそ、潜んで見えにくいエクササイズ中毒。やり過ぎかもと思う人は、何のために運動しているのかを今一度見つめ直してみると良いかもしれません。 (参考記事) (1) Psychometric properties and concurrent validity of two exercise addiction measures: A population wide study https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1469029212000829 (2) Exercise addiction in adolescents and emerging adults – Validation of a youth version of the Exercise Addiction Inventory https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6035018/ (3) The exercise addiction inventory: a quick and easy screening tool for health practitioners https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15911594/ (4) Eating disorders linked to exercise addiction https://www.sciencedaily.com/releases/2020/01/200128114642.htm |
Author長野弘子 Archives
February 2024
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